会長挨拶

(2021年9月)

兵庫腎疾患対策協会 会長
(西宮敬愛会病院 院長 神戸赤十字病院 顧問)

守殿 貞夫

 

兵庫腎疾患対策協会は、国際ソロプチミスト神戸東の事業活動「腎大切にしていますか」を基盤として、故石神襄次神戸大学名誉教授を会長として、1990年9月に発足し、今年で創立31年になります。当協会の目的は、兵庫県下における、臓器移植の推進を柱として、腎疾患の予防、住民の健康および福祉の向上に努める事にあります。
会員は、個人(一般人、看護師、コメディカル、医師他)、法人ならびに団体からなる正会員、および幹事会の議決を経て推薦された特別会員で構成され、入会の申し込みは随時受け付けております。
 当協会では、臓器移植関連の人材養成事業として、兵庫県臓器移植コーディネーターの養成・助成に努めて参りました。2009年からスペインの臓器移植トレーニングシステム(TPM)への研修者支援、現在では、この研修経験者を中心に県内外において臓器提供推進トレーニングシステムに基づくワークショップ、研修を実施、臓器移植推進活動に努めて参りました。しかし、昨年春の新型コロナウイルス感染症の蔓延以来、活動は一時中止せざるを得ない事態に陥っています。

 

新型コロナ感染症まん延下における臓器移植

日本臓器移植ネットワークによると、国内の脳死下・心停止後臓器移植件数は1997年の臓器移植法施行以降、増加傾向にありましたが、2019年の480件から2020年は318件に大幅に減少しました。これは増加していた脳死下の臓器提供件数が、2019年の97件から2020年は68件、近年減少傾向の心停止後では28件から9件へと減少したことによります。まさしく、20年からのコロナ禍の影響にほかならない、一方で、臓器移植の希望登録者(待機者)数は増加傾向にあり、心臓移植を希望する人は2020年7月の849人から2021年7月には927人と大幅に増えています。我が国と同様に、欧米でもコロナ感染拡大と同時に臓器提供件数は激減しています。
新型コロナウイルス感染症まん延により臓器移植が減少した理由のひとつとして、多くの病院では、感染症パンデミック時に備えての対応可能な臓器移植用の手術室・ICU・病室におけるゾーニング(清潔・汚染区域の区分け)が整備されていない。また、移植医療上の問題として、免疫抑制下での移植患者は新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい、さらにはドナー由来のコロナウイルスの伝播が現時点で否定できないとの見解もあります。生体移植を含め、脳死下・心停止後臓器移植や移植後の患者管理には多くの課題が山積しています。しかし、生体移植は延期することも可能ですが、脳死下・心停止後に提供される臓器はただちに移植する必要があります。この度の新型コロナウイルス感染症に限らず、今後の新規な感染症パンデミックを想定した、臓器移植医療の新しい体制づくりが望まれます。

 

我が国で臓器提供が少ないのは

2010年の改正臓器移植法施行により、本人の意思が不明であっても、拒否の意思がない場合は、家族の承諾で臓器提供ができるようになり、脳死後の提供件数が増えてきた。しかし、2013年頃から心停止後の腎臓提供が減少し、全体の臓器提供者数は減少傾向にあります。さらに、2020年初頭からの新型コロナ感染症まん延によりその傾向が特に強くなってきています。
日本で臓器提供が少ない大きな要因として、医療関係者も含め、国民全体に移植医療への関心の低さが問題であることを昨年から申し上げています。
臓器移植について「知らないから関心がない、知らないから決められない」という状況がこの新型コロナ感染症の蔓延によりさらに強まったと危惧しています。
公益社団法人日本臓器移植ネットワークの事業推進本部本部長で医師の林昇甫氏は、「制度は整いつつあるが、真に臓器提供しやすい環境になったかというと、まだまだ不十分だ。10年以上前に法改正されたが、ドナー家族への負担や取り巻く環境はほとんど変わっていない」との問題を提起されています。
「本人が家族と食卓を囲んだときなどの日常会話で臓器提供の話をするかというと、そのようなケースはまれだろう。臓器提供は一般的に、当事者にならないと自分事にはならないからだ。はたして、臓器提供を意思表示したことがあるか、またはそのようなことを話したことがあるかなどといった記憶をたどり、亡くなった本人の意思を汲み取る必要がある。それが本人の尊厳を守ることにもつながることになるのだろう」と述べられています。

 

「この子が生きていた証しをこの世に残してあげたい」

ここに、日本臓器移植ネットワークに届いたドナー家族からのコメントを紹介します。このご家族は、戦隊ヒーローが大好きだったわが子を思い、最終的に臓器提供を決められたそうです。      
【私たち家族が愛する三男が事故により救急搬送されました。心肺停止での搬送で諦めかけていた中、救急隊員さんの懸命な心肺蘇生法で心臓が動き、搬送された病院の医療チームの治療で私たちに希望が見えてきました。臓器の回復の兆候がありましたが低酸素脳症からの復帰は残念ながらありませんでした。 
必ず戻ってくれると信じていたのですが、医師から脳死の状態に近く厳しいと告げられました。
その後に医師から臓器提供の選択肢もあるというお話をいただきました。脳死、臓器提供なんてテレビの話、なぜうちの子に。そんな思いでいっぱいで夫婦で迷いました。
しかし、この子が生きていた証しをこの世に残してあげたい、そんな思いで臓器を提供するのもいいのではと家族で相談し、必要としている人に提供し、その中で生きてくれればと決意しました。もちろん病院のスタッフさんの十分な治療も決断のひとつかと思います。
小児の臓器提供は少ないと聞いています。もちろん私たちもすごく迷いましたが、必要としている子供さん、親御さんの気持ちも少し理解できたように思います。医療関係者さんも経験がほとんどないかと思います。この提供で移植の技術の向上が進めばと思います。また、この提供で臓器移植の考えが多く理解され助かる命が増えればと思います。戦隊ヒーローが好きだった息子、人の命を助けられるヒーローになってくれると思います(東洋経済新報社 君塚 靖)】。
このご家族の思いこそ、厚生労働省が提唱している人生会議「健康時から将来の自分にとって望ましい“医療・ケア・プラン” を家族間で、時には医療人の力を借りて予め考え、家族間でそれらを共有しましょう」の目指すところでしょうか。
私は、以前から申し上げているように、この「人生会議」の中で、臓器提供について家族間で話し合い、臓器提供の意思確認をして頂きたいと思っています。「脳死状態になった家族の一人がドナーカードを有し、臓器提供の意思があったこと」を家族が共有していれば、臓器提供に繋がります。「知らないから関心がない、知らないから決められない」ということは無くなり、日本の移植医療も良い方向へ変わって行けるものと考えています。
 当協会は、臓器移植の推進、ならびに生命や生活の質に重大な影響を与えるCKD(慢性腎臓病)の発症・進展予防策の推進を目指し活動して行きます。当協会の趣旨に賛同して頂ける皆様におかれましては、ご支援・ご入会方よろしくお願いします。